眼科医は見逃してはいけない!日常診療に潜む重症筋無力症 (2)日内変動する複視を診たら、経過観察せずにMGの検査を! - すべて | 臨床検査薬(体外診断用医薬品・研究用試薬)の株式会社コスミック コーポレーション
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神経疾患重症筋無力症(MG)
眼科医は見逃してはいけない!日常診療に潜む重症筋無力症 (2)日内変動する複視を診たら、経過観察せずにMGの検査を!
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兵庫医科大学眼科学教室准教授
木村亜紀子(きむら あきこ)先生
1994年 兵庫医科大学卒業、眼科学教室入局
2003年 兵庫医科大学大学院医学研究科卒業・博士号取得、兵庫医科大学眼科学教室助手
2008年 兵庫医科大学眼科学教室講師
2013年 兵庫医科大学眼科学教室准教授
木村亜紀子(きむら あきこ)先生
1994年 兵庫医科大学卒業、眼科学教室入局
2003年 兵庫医科大学大学院医学研究科卒業・博士号取得、兵庫医科大学眼科学教室助手
2008年 兵庫医科大学眼科学教室講師
2013年 兵庫医科大学眼科学教室准教授
日内変動する複視や他覚的所見と自覚的所見が一致しない複視を診たら、経過観察せずにMGの検査を!
重症筋無力症(MG)は、眼瞼下垂や複視で発症するため全身疾患でありながら,患者さんが最初に眼科を受診することがよくある疾患です。そのため、眼科で見逃すと患者さんの予後に大きな影響をもたらす可能性があります。また、近年ではMGの診断基準や検査法が進歩し、眼科でもMGを診断しやすい状況となってきています。
そこで、専門家として普段からMGの診療に携わり、日本神経眼科学会や日本弱視斜視学会で理事を務めている、兵庫医科大学眼科学教室准教授の木村亜紀子先生に、眼科医にとってのMGの重要性や見抜き方、対応法などについてお話を伺いました
そこで、専門家として普段からMGの診療に携わり、日本神経眼科学会や日本弱視斜視学会で理事を務めている、兵庫医科大学眼科学教室准教授の木村亜紀子先生に、眼科医にとってのMGの重要性や見抜き方、対応法などについてお話を伺いました
複視や斜視からMGに気づくためのポイント
――未診断のMG患者さんは、複視を訴えて眼科クリニックにかかる可能性があるそうですね。このときに見逃さないためのポイントを教えてください。
前回の記事では、MGによって起こる眼瞼下垂は「ある日突然起こり、発症日が比較的はっきりしている」ことが特徴だと申し上げました。しかし、複視に関しては発症のタイミングは明らかではありません。いつ頃から複視の症状が出ましたかと聞いても「2、3ヶ月前かな」とか「もうちょっと前かもしれない」とか、あやふやな返答をされます。
逆に眼瞼下垂と同じ点としては、MGによる複視は、日内変動および日差変動があるということです。すなわち、朝は調子が良く、夕方になると悪くなる。日によって症状が異なり、調子のいい日と悪い日がある。これも大きなポイントです(図は下記にある関連情報はこちら(PDF)からご確認頂けます)。
このことは、MGと神経麻痺を鑑別する上で重要な点になります。というのも、高齢者で起こる複視の約8割は眼運動神経麻痺なのです。これは眼の微小循環障害によって起こり、自然に治るものです。ですから、高齢者の複視を初診でみると、いったん経過観察とすることが多いのですが、もしMGであった場合にそのような対応をしてしまうと、結果的に治療開始が遅れてしまう要因となりかねません。
――本当はMGなのに、見抜けずに経過観察してしまう例は実臨床でよく経験されるのですか?
残念ながら、半年くらい経過観察して改善しないから専門の施設に送ってこられ、そこでMGだと判明するようなケースは少なからずあります。
前回もお話した通り、眼筋型の段階できちんと初期治療をすることで、全身型へ移行するリスクを軽減させることができます。全身型になると、眼の症状だけでなく、四肢の筋力低下による日常生活への支障が出てきますし、重症例では、嚥下障害や構音障害、呼吸困難など生命予後にも関わってきます。眼科での経過観察という判断がMG患者さんの予後を大きく左右する可能性があるということを念頭に置いていただきたいと思います。
ちなみに、甲状腺眼症による複視も日内変動があります(朝調子が悪い)が、眼球突出や典型的な眼瞼症状が乏しく、甲状腺機能亢進症に先行して眼症状で初発した場合、気づかずに経過観察にしてしまうと、しばらくしてバセドウ病の症状が出てきて「眼科にかかっていたけどバセドウ病を指摘してもらえなかった」ということになります。この点も注意が必要です。(※甲状腺眼症については「MGや甲状腺眼症が疑わしい症例は、様子を見過ぎずに
検査や紹介を!」の記事を参照)
――MGと眼運動神経麻痺を鑑別するには、どう対応するといいのでしょうか。
神経麻痺の場合は、朝と夕方で症状が変動することはありません。症状が変動するかしないかが、MGとの鑑別ポイントになります。
市中の眼科クリニックであれば、診察する時間帯を変えて症状を確認するという方法が取れるかもしれません。例えば、朝受診した患者さんに、夕方にも来院してもらって日内変動の有無を確認することができるのではないでしょうか。もし症状に変化があればMGを念頭に置いた精査が始められます。
――そもそも患者さんが複視という症状を知らないケースもありそうですね。
はい。複視が起きているのに「乱視で見えにくくなっている」「白内障になったんじゃないか」「メガネのピントが合わない」などと訴えることはよくあります。
複視があるかどうかを調べるには、赤ガラス法という、ペンライトと赤ガラスを用いた検査があります。片目の前に赤ガラスを置いて,前から光を当てると,赤い光と、もう片方は白い光を自覚します。赤い光と白い光が上下や左右にずれて見えた場合は複視があると判断できます。これは神経眼科を専門としている眼科医であれば日常的に行っている検査です。
複視が出るということは、斜視があるということでもあります。しかし、MGの場合は見た目にあまり斜視が目立たないということも注意すべきポイントです。目が大きく外にずれる斜視は外観上すぐ分かりますが、上下にずれる斜視は外観上、目立たないのが特徴です。また、MGでの斜視の特徴は、他覚的所見(眼球運動の検査:Hess赤緑試験)と視診の所見が一致しないことも挙げられます。患者さんが複視で困っていても、外観上斜視に見えないことから、診断が遅れることが多々あります。甲状腺眼症も上下斜視を呈することが多く、軽症の場合は斜視が目立ちません。
ですから、外観上斜視にみえない患者さんが、強い複視を訴えている場合は、上下斜視かもしれないと考え、その裏にはMGや甲状腺眼症が潜んでいるのでは,と考える必要があります。見た目が斜視にみえない複視の患者さんを見たら、採血検査をしたほうがいいと思います。
前回の記事では、MGによって起こる眼瞼下垂は「ある日突然起こり、発症日が比較的はっきりしている」ことが特徴だと申し上げました。しかし、複視に関しては発症のタイミングは明らかではありません。いつ頃から複視の症状が出ましたかと聞いても「2、3ヶ月前かな」とか「もうちょっと前かもしれない」とか、あやふやな返答をされます。
逆に眼瞼下垂と同じ点としては、MGによる複視は、日内変動および日差変動があるということです。すなわち、朝は調子が良く、夕方になると悪くなる。日によって症状が異なり、調子のいい日と悪い日がある。これも大きなポイントです(図は下記にある関連情報はこちら(PDF)からご確認頂けます)。
このことは、MGと神経麻痺を鑑別する上で重要な点になります。というのも、高齢者で起こる複視の約8割は眼運動神経麻痺なのです。これは眼の微小循環障害によって起こり、自然に治るものです。ですから、高齢者の複視を初診でみると、いったん経過観察とすることが多いのですが、もしMGであった場合にそのような対応をしてしまうと、結果的に治療開始が遅れてしまう要因となりかねません。
――本当はMGなのに、見抜けずに経過観察してしまう例は実臨床でよく経験されるのですか?
残念ながら、半年くらい経過観察して改善しないから専門の施設に送ってこられ、そこでMGだと判明するようなケースは少なからずあります。
前回もお話した通り、眼筋型の段階できちんと初期治療をすることで、全身型へ移行するリスクを軽減させることができます。全身型になると、眼の症状だけでなく、四肢の筋力低下による日常生活への支障が出てきますし、重症例では、嚥下障害や構音障害、呼吸困難など生命予後にも関わってきます。眼科での経過観察という判断がMG患者さんの予後を大きく左右する可能性があるということを念頭に置いていただきたいと思います。
ちなみに、甲状腺眼症による複視も日内変動があります(朝調子が悪い)が、眼球突出や典型的な眼瞼症状が乏しく、甲状腺機能亢進症に先行して眼症状で初発した場合、気づかずに経過観察にしてしまうと、しばらくしてバセドウ病の症状が出てきて「眼科にかかっていたけどバセドウ病を指摘してもらえなかった」ということになります。この点も注意が必要です。(※甲状腺眼症については「MGや甲状腺眼症が疑わしい症例は、様子を見過ぎずに
検査や紹介を!」の記事を参照)
――MGと眼運動神経麻痺を鑑別するには、どう対応するといいのでしょうか。
神経麻痺の場合は、朝と夕方で症状が変動することはありません。症状が変動するかしないかが、MGとの鑑別ポイントになります。
市中の眼科クリニックであれば、診察する時間帯を変えて症状を確認するという方法が取れるかもしれません。例えば、朝受診した患者さんに、夕方にも来院してもらって日内変動の有無を確認することができるのではないでしょうか。もし症状に変化があればMGを念頭に置いた精査が始められます。
――そもそも患者さんが複視という症状を知らないケースもありそうですね。
はい。複視が起きているのに「乱視で見えにくくなっている」「白内障になったんじゃないか」「メガネのピントが合わない」などと訴えることはよくあります。
複視があるかどうかを調べるには、赤ガラス法という、ペンライトと赤ガラスを用いた検査があります。片目の前に赤ガラスを置いて,前から光を当てると,赤い光と、もう片方は白い光を自覚します。赤い光と白い光が上下や左右にずれて見えた場合は複視があると判断できます。これは神経眼科を専門としている眼科医であれば日常的に行っている検査です。
複視が出るということは、斜視があるということでもあります。しかし、MGの場合は見た目にあまり斜視が目立たないということも注意すべきポイントです。目が大きく外にずれる斜視は外観上すぐ分かりますが、上下にずれる斜視は外観上、目立たないのが特徴です。また、MGでの斜視の特徴は、他覚的所見(眼球運動の検査:Hess赤緑試験)と視診の所見が一致しないことも挙げられます。患者さんが複視で困っていても、外観上斜視に見えないことから、診断が遅れることが多々あります。甲状腺眼症も上下斜視を呈することが多く、軽症の場合は斜視が目立ちません。
ですから、外観上斜視にみえない患者さんが、強い複視を訴えている場合は、上下斜視かもしれないと考え、その裏にはMGや甲状腺眼症が潜んでいるのでは,と考える必要があります。見た目が斜視にみえない複視の患者さんを見たら、採血検査をしたほうがいいと思います。
MGや甲状腺眼症が疑わしい患者には「複視セット」の活用を!
――複視のある患者さんで、MGや甲状腺眼症を疑った場合に行う検査について教えてください。
一般的な眼科クリニックで行いやすいMGの検査としてアイスパック試験があるのですが、複視がある場合は少し使いにくいです。というのも、眼瞼なら2分間冷やせばいいところ、複視では5分間冷やさないといけないですし、その判定も分かりにくいと思います。そのため、専門施設では塩酸エドロホニウム(テンシロン)試験を行いますが、眼科クリニックでテンシロン試験を行うのは難しいのではないかと思います。
――採血して病原性自己抗体を測定する方が簡便でしょうか。
採血するシステムがある眼科では、そうですね。当院では下図(図は下記にある関連情報はこちら(PDF)からご確認頂けます)。のような「複視セット」があり、MGと甲状腺眼症の診断に必要な項目をまとめて採血検査を行っています。
また、冒頭でお話しした眼運動神経麻痺とMGとの鑑別のために、抗体検査を活用することもできると思います。眼の微小循環障害は、高血圧,糖尿や高脂血症のある方に生じやすいので,高齢者でも、これらがない方で,夕方悪くなるような気がするという方は、MGの可能性がありますので抗アセチルコリン受容体抗体を測定しても良いと思います。
とはいえ、採血結果がなくても、アイスパック試験のみでMGの可能性を示唆し専門施設に送ってこられたら、素晴らしい対応だと思います。
まとめますと、日内変動および日差変動がある複視や、患者さんが強く複視を訴えているのに見た目、斜視にみえないケースでは、MGや甲状腺眼症を疑って「複視セット」もしくはアイスパック試験を実施し、専門施設にご紹介いただきたいです。
MGは早期に診断し,速やかに治療に入れるかどうかが患者さんの予後やQOLに大きく影響します。眼科医は「MGの早期治療へのゲートオープナー」であることを意識して、日々の診療にあたる必要があると思います。
一般的な眼科クリニックで行いやすいMGの検査としてアイスパック試験があるのですが、複視がある場合は少し使いにくいです。というのも、眼瞼なら2分間冷やせばいいところ、複視では5分間冷やさないといけないですし、その判定も分かりにくいと思います。そのため、専門施設では塩酸エドロホニウム(テンシロン)試験を行いますが、眼科クリニックでテンシロン試験を行うのは難しいのではないかと思います。
――採血して病原性自己抗体を測定する方が簡便でしょうか。
採血するシステムがある眼科では、そうですね。当院では下図(図は下記にある関連情報はこちら(PDF)からご確認頂けます)。のような「複視セット」があり、MGと甲状腺眼症の診断に必要な項目をまとめて採血検査を行っています。
また、冒頭でお話しした眼運動神経麻痺とMGとの鑑別のために、抗体検査を活用することもできると思います。眼の微小循環障害は、高血圧,糖尿や高脂血症のある方に生じやすいので,高齢者でも、これらがない方で,夕方悪くなるような気がするという方は、MGの可能性がありますので抗アセチルコリン受容体抗体を測定しても良いと思います。
とはいえ、採血結果がなくても、アイスパック試験のみでMGの可能性を示唆し専門施設に送ってこられたら、素晴らしい対応だと思います。
まとめますと、日内変動および日差変動がある複視や、患者さんが強く複視を訴えているのに見た目、斜視にみえないケースでは、MGや甲状腺眼症を疑って「複視セット」もしくはアイスパック試験を実施し、専門施設にご紹介いただきたいです。
MGは早期に診断し,速やかに治療に入れるかどうかが患者さんの予後やQOLに大きく影響します。眼科医は「MGの早期治療へのゲートオープナー」であることを意識して、日々の診療にあたる必要があると思います。
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