糖尿病の病型診断における抗GAD抗体の測定意義 - すべて | 臨床検査薬(体外診断用医薬品・研究用試薬)の株式会社コスミック コーポレーション
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糖尿病の病型診断における抗GAD抗体の測定意義
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東京都済生会中央病院 糖尿病・内分泌内科
医長 及川洋一(おいかわ よういち)先生
1995年 慶應義塾大学医学部卒業
1995年 慶應義塾大学医学部内科 研修医
1997年 川崎市立川崎病院 内科
1998年 佐野厚生総合病院 内科
1999年 慶應義塾大学医学部内科(腎臓内分泌代謝科)専修医
2002年 大阪大学大学院医学系研究科 幹細胞制御分野
2004年 慶應義塾大学医学部内科(腎臓内分泌代謝科)助手
2007年 慶應義塾大学医学部内科(腎臓内分泌代謝科)助教
2010年 東京都済生会中央病院 糖尿病・内分泌内科 医員
2010年 東京都済生会中央病院内科 糖尿病・内分泌内科 副医長
2014年 東京都済生会中央病院内科 糖尿病・内分泌内科 医長
医長 及川洋一(おいかわ よういち)先生
1995年 慶應義塾大学医学部卒業
1995年 慶應義塾大学医学部内科 研修医
1997年 川崎市立川崎病院 内科
1998年 佐野厚生総合病院 内科
1999年 慶應義塾大学医学部内科(腎臓内分泌代謝科)専修医
2002年 大阪大学大学院医学系研究科 幹細胞制御分野
2004年 慶應義塾大学医学部内科(腎臓内分泌代謝科)助手
2007年 慶應義塾大学医学部内科(腎臓内分泌代謝科)助教
2010年 東京都済生会中央病院 糖尿病・内分泌内科 医員
2010年 東京都済生会中央病院内科 糖尿病・内分泌内科 副医長
2014年 東京都済生会中央病院内科 糖尿病・内分泌内科 医長
糖尿病は成因別に「1型糖尿病」「2型糖尿病」「その他の特定の機序、疾患による糖尿病」「妊娠糖尿病」の4つの病型に分類されています。糖尿病治療を適切に行うためには、糖尿病の病型を正しく鑑別し、成因や病状に即した治療方法を選択する必要があります。
1型糖尿病は、膵β細胞の破壊によってインスリン分泌が低下あるいは枯渇し高血糖状態が形成・維持される代謝疾患であり、一般的に自己免疫が発症に関与していると考えられています。抗グルタミン酸脱炭酸酵素(Glutamic Acid Decarboxylase:GAD)抗体は、自己免疫性1型糖尿病の診断に役立つ最も優れた膵島関連自己抗体であり、その特徴や臨床的有用性を理解しておくことは非常に重要です。今回は、東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科医長の及川洋一先生に、糖尿病の病型診断における抗GAD抗体の測定意義についてお話を伺いました。
1型糖尿病は、膵β細胞の破壊によってインスリン分泌が低下あるいは枯渇し高血糖状態が形成・維持される代謝疾患であり、一般的に自己免疫が発症に関与していると考えられています。抗グルタミン酸脱炭酸酵素(Glutamic Acid Decarboxylase:GAD)抗体は、自己免疫性1型糖尿病の診断に役立つ最も優れた膵島関連自己抗体であり、その特徴や臨床的有用性を理解しておくことは非常に重要です。今回は、東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科医長の及川洋一先生に、糖尿病の病型診断における抗GAD抗体の測定意義についてお話を伺いました。
糖尿病の病型や1型糖尿病のサブタイプを鑑別することが重要
───2型糖尿病と1型糖尿病はどのように異なるのでしょうか
2型糖尿病は加齢変化や遺伝素因(体質)に環境要因(生活習慣)が重なることによって発症します。多くの場合、過食による肥満や運動不足などの生活習慣の乱れによってインスリン抵抗性が増大し、相対的にインスリン作用が低下することによって慢性的な高血糖状態を呈します。一方、1型糖尿病はβ細胞の破壊によってインスリン分泌が低下・枯渇し高血糖状態や急性代謝失調を来す疾患であり、その大半は自己免疫が発症に関与していると推測されています。
1型糖尿病は発症様式別に、急性発症1型糖尿病、緩徐進行1型糖尿病(Slowly Progressive Insulin-dependent (Type 1) Diabetes Mellitus;以下SPIDDM)、劇症1型糖尿病の3つのサブタイプに分類されます。急性発症1型糖尿病と劇症1型糖尿病は、発症時に著明な高血糖に基づく糖尿病症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)に加えて、糖尿病ケトーシスや糖尿病ケトアシドーシス(急性代謝失調)を来すため、2型糖尿病との鑑別は比較的容易と考えられます。一方、SPIDDMは発症早期の段階ではインスリン分泌が保たれていますが、数年かけて徐々にインスリン依存状態へと進行していきます1)。したがって、発症早期は急性代謝失調を来すことはなく(ソフトドリンクケトーシス・ケトアシドーシスで発症した場合を除く)、一見すると2型糖尿病と区別がつきません。
───なぜ2型糖尿病とSPIDDMの鑑別が重要なのでしょうか
インスリン非依存状態にあるSPIDDM患者をSU薬による治療群(SU群)とインスリン治療群(インスリン群)の2つに割り付けて、各治療法がインスリン分泌能にどのような影響をもたらすかを前向きに調査した臨床研究(Tokyo Study)が行われました2)。その結果、SU群の半数近く(43%)が5年以内にインスリン依存状態に進展しましたが、インスリン群では10%に留まりインスリン治療によるβ細胞保護効果が示唆されました。本研究結果が基となり、SPIDDMではSU薬の使用を避けることが望ましく、また早期からのインスリン治療をためらわないことが治療のコンセンサスとなっています。2型糖尿病として漫然と治療されることがないよう、SPIDDMと2型糖尿病を正しく鑑別することが重要です。
2型糖尿病は加齢変化や遺伝素因(体質)に環境要因(生活習慣)が重なることによって発症します。多くの場合、過食による肥満や運動不足などの生活習慣の乱れによってインスリン抵抗性が増大し、相対的にインスリン作用が低下することによって慢性的な高血糖状態を呈します。一方、1型糖尿病はβ細胞の破壊によってインスリン分泌が低下・枯渇し高血糖状態や急性代謝失調を来す疾患であり、その大半は自己免疫が発症に関与していると推測されています。
1型糖尿病は発症様式別に、急性発症1型糖尿病、緩徐進行1型糖尿病(Slowly Progressive Insulin-dependent (Type 1) Diabetes Mellitus;以下SPIDDM)、劇症1型糖尿病の3つのサブタイプに分類されます。急性発症1型糖尿病と劇症1型糖尿病は、発症時に著明な高血糖に基づく糖尿病症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)に加えて、糖尿病ケトーシスや糖尿病ケトアシドーシス(急性代謝失調)を来すため、2型糖尿病との鑑別は比較的容易と考えられます。一方、SPIDDMは発症早期の段階ではインスリン分泌が保たれていますが、数年かけて徐々にインスリン依存状態へと進行していきます1)。したがって、発症早期は急性代謝失調を来すことはなく(ソフトドリンクケトーシス・ケトアシドーシスで発症した場合を除く)、一見すると2型糖尿病と区別がつきません。
───なぜ2型糖尿病とSPIDDMの鑑別が重要なのでしょうか
インスリン非依存状態にあるSPIDDM患者をSU薬による治療群(SU群)とインスリン治療群(インスリン群)の2つに割り付けて、各治療法がインスリン分泌能にどのような影響をもたらすかを前向きに調査した臨床研究(Tokyo Study)が行われました2)。その結果、SU群の半数近く(43%)が5年以内にインスリン依存状態に進展しましたが、インスリン群では10%に留まりインスリン治療によるβ細胞保護効果が示唆されました。本研究結果が基となり、SPIDDMではSU薬の使用を避けることが望ましく、また早期からのインスリン治療をためらわないことが治療のコンセンサスとなっています。2型糖尿病として漫然と治療されることがないよう、SPIDDMと2型糖尿病を正しく鑑別することが重要です。
糖尿病の診断時に抗GAD抗体を測定し、SPIDDMを見逃さない
───どのようにして2型糖尿病とSPIDDMを鑑別すればよいのでしょうか
膵島関連自己抗体である抗GAD抗体は、急性発症1型糖尿病やSPIDDMの診断に役立つ重要な自己抗体であり、急性発症1型糖尿病の発症早期における陽性率は約80%と報告されています3)。一方、SPIDDMでは抗GAD抗体もしくは抗膵島細胞質抗体(Islet Cell Antibody:ICA)(保険未収載)が陽性であることが診断基準の必須項目となっています4)。SPIDDMの病初期は抗GAD抗体が陽性であること以外は2型糖尿病類似の臨床像を呈することから、抗GAD抗体の測定が唯一の鑑別方法となります。
───どのようなタイミングで抗GAD抗体を測定すべきでしょうか
抗GAD抗体はすでに糖尿病の診断が確定した患者に対して1型糖尿病の診断を目的とした場合に測定します。ケト-シスやケトアシドーシスを伴って新規に糖尿病と診断されたケースでは、抗GAD抗体を測定することによって1型糖尿病の診断に役立つことが期待されます。
一方、病初期のSPIDDMと2型糖尿病は臨床像がよく似ているので、両者を鑑別するには抗GAD抗体の測定以外に方法はありません。したがって、糖尿病の新規発症(診断)時には、一見2型糖尿病様であっても抗GAD抗体を測定し、SPIDDMを見逃さないように注意することが大切です。
日本糖尿病学会1型糖尿病調査研究委員会による全国調査1)によると、臨床的に2型糖尿病と考えられる発症(診断)5年以内の糖尿病症例の約10%が何らかの膵島関連自己抗体を有するSPIDDMである(抗GAD抗体陽性例に限定すると約7%)と報告されています。2型糖尿病として治療中の患者の中に少なからずSPIDDM症例が潜んでいる可能性を示唆する所見であり、糖尿病発症(診断)早期における抗GAD抗体測定の重要性が示されました。
そのほか、糖尿病の発症(診断)5年以内に限定した場合(平均罹病期間1年程度)、SPIDDMは2型糖尿病と比較して次のような臨床的特徴を有していることが報告されており1)、SPIDDMを疑って抗GAD抗体を測定するきっかけとなる可能性があります。
1. 経口血糖降下薬による治療効果が現れにくく、血糖コントロールが悪い(平均HbA1c(NGSP):9.7%)
2. 自己免疫性甲状腺疾患の合併頻度が高い(21.1%)
3. 非肥満例が多い(平均BMI:22.1 kg/m2)
ただし、SPIDDMの約20%は肥満(BMI≧25 kg/m2)例であることが示されており1)、肥満の有無だけでSPIDDMの可能性を論じることはできません。一方、性別ならびに発症年齢はSPIDDMと2型糖尿病との間に差はありませんでした。糖尿病家族歴についても2型糖尿病(38.7%)とSPIDDM(25.5%)では有意差はありませんでしたが、SPIDDMの方が低頻度でした1)。
近年、過去に抗GAD抗体の陰性が確認され2型糖尿病として治療中の症例において、経過中に抗GAD抗体の陽転化がみられたケースが学会等で多く報告されています。2型糖尿病として経口血糖降下薬やインスリンによる治療を行っているにも関わらず、血糖コントロール不良の状態が続いている場合や急激な血糖コントロールの悪化をみた場合、インスリン分泌能の著明な低下がある場合は、抗GAD抗体の再測定によって1型糖尿病の病態の関与が明らかになる可能性があります。現在、日本人1型糖尿病の成因、診断、病態、治療に関する調査研究委員会ではこのような症例の臨床像に関する全国アンケート調査を行っており5)、結果の発表が待たれます。
膵島関連自己抗体である抗GAD抗体は、急性発症1型糖尿病やSPIDDMの診断に役立つ重要な自己抗体であり、急性発症1型糖尿病の発症早期における陽性率は約80%と報告されています3)。一方、SPIDDMでは抗GAD抗体もしくは抗膵島細胞質抗体(Islet Cell Antibody:ICA)(保険未収載)が陽性であることが診断基準の必須項目となっています4)。SPIDDMの病初期は抗GAD抗体が陽性であること以外は2型糖尿病類似の臨床像を呈することから、抗GAD抗体の測定が唯一の鑑別方法となります。
───どのようなタイミングで抗GAD抗体を測定すべきでしょうか
抗GAD抗体はすでに糖尿病の診断が確定した患者に対して1型糖尿病の診断を目的とした場合に測定します。ケト-シスやケトアシドーシスを伴って新規に糖尿病と診断されたケースでは、抗GAD抗体を測定することによって1型糖尿病の診断に役立つことが期待されます。
一方、病初期のSPIDDMと2型糖尿病は臨床像がよく似ているので、両者を鑑別するには抗GAD抗体の測定以外に方法はありません。したがって、糖尿病の新規発症(診断)時には、一見2型糖尿病様であっても抗GAD抗体を測定し、SPIDDMを見逃さないように注意することが大切です。
日本糖尿病学会1型糖尿病調査研究委員会による全国調査1)によると、臨床的に2型糖尿病と考えられる発症(診断)5年以内の糖尿病症例の約10%が何らかの膵島関連自己抗体を有するSPIDDMである(抗GAD抗体陽性例に限定すると約7%)と報告されています。2型糖尿病として治療中の患者の中に少なからずSPIDDM症例が潜んでいる可能性を示唆する所見であり、糖尿病発症(診断)早期における抗GAD抗体測定の重要性が示されました。
そのほか、糖尿病の発症(診断)5年以内に限定した場合(平均罹病期間1年程度)、SPIDDMは2型糖尿病と比較して次のような臨床的特徴を有していることが報告されており1)、SPIDDMを疑って抗GAD抗体を測定するきっかけとなる可能性があります。
1. 経口血糖降下薬による治療効果が現れにくく、血糖コントロールが悪い(平均HbA1c(NGSP):9.7%)
2. 自己免疫性甲状腺疾患の合併頻度が高い(21.1%)
3. 非肥満例が多い(平均BMI:22.1 kg/m2)
ただし、SPIDDMの約20%は肥満(BMI≧25 kg/m2)例であることが示されており1)、肥満の有無だけでSPIDDMの可能性を論じることはできません。一方、性別ならびに発症年齢はSPIDDMと2型糖尿病との間に差はありませんでした。糖尿病家族歴についても2型糖尿病(38.7%)とSPIDDM(25.5%)では有意差はありませんでしたが、SPIDDMの方が低頻度でした1)。
近年、過去に抗GAD抗体の陰性が確認され2型糖尿病として治療中の症例において、経過中に抗GAD抗体の陽転化がみられたケースが学会等で多く報告されています。2型糖尿病として経口血糖降下薬やインスリンによる治療を行っているにも関わらず、血糖コントロール不良の状態が続いている場合や急激な血糖コントロールの悪化をみた場合、インスリン分泌能の著明な低下がある場合は、抗GAD抗体の再測定によって1型糖尿病の病態の関与が明らかになる可能性があります。現在、日本人1型糖尿病の成因、診断、病態、治療に関する調査研究委員会ではこのような症例の臨床像に関する全国アンケート調査を行っており5)、結果の発表が待たれます。
抗GAD抗体の測定がRIA法からELISA法に変更
───抗GAD抗体はどのようにして測定するのでしょうか
従来は、放射性同位元素を用いたラジオイムノアッセイ(Radioimmunoassay:RIA)法により測定されてきましたが、2015年12月から,Enzyme-Linked Immunosorbent Assay(ELISA)法に切り替わりました。ELISA法は放射性物質を使用しないため測定が簡便になり、Immunology of Diabetes Society(IDS)による性能評価プログラム(Islet Autoantibody Standardization Program:IASPまたはDiabetes Antibody Standardization Program:DASP)において、RIA法と比べて感度、特異度ともに優れていることが示されました。また、RIA法では測定値の単位が国際標準と異なっていたため、海外データと比較する際には単位の変換が必要でしたが、ELISA法では国際標準単位に準拠しているため比較が容易になりました。
───測定法の変更により注意すべき点はありますか
当施設を含む多施設共同研究の結果6)、急性発症1型糖尿病についてはELISA法への変更によって陽性率の増加がみられました(RIA法:80.6%、ELISA法:84.2%;有意差なし)。一方、SPIDDMではRIA法で陽性であったにも関わらずELISA法で陰性となった症例が55例中14例(25.5%)にみられ、陽性率の低下を認めました。特に、RIA法による抗体価を20 U/mL未満の症例に限定した場合、ELISA法で陰性化する割合が高くなっていました(35例中14例;40.0%)。
続いて我々は、過去にRIA法で抗GAD抗体陽性が確認されているSPIDDM症例を対象とし、平均2.41年後に抗GAD抗体をELISA法で測定しました。その結果、63例中42例(66.7%)は陽性のままでしたが、21例(33.3%)は陰転化していることが判明しました7)。各群の臨床像を解析したところ、陽性群では糖尿病発症(診断)後11年以内にインスリン分泌が著明に低下していました。一方、陰転化群では発症(診断)後11年程度まではインスリン分泌は保たれていましたが、11年を過ぎるとインスリン分泌能は陽性群と同程度にまで低下していました。つまり、疾患活動性が高いSPIDDM症例ではELISA法で陽性となり、疾患活動性が低いSPIDDM症例では陰性となる可能性が示唆されました。
わが国では、SPIDDMに関する多くの重要なエビデンスがRIA法によって示されてきたことから、日本糖尿病学会ではRIA法とELISA法の判定結果に乖離が生じた場合は、従来のRIA法の結果を優先して診療を行うよう推奨しています。一方、過去にRIA法の測定歴がない場合は、ELISA法の結果に基づいて病態を評価し治療を行います。ELISA法による新たなエビデンスの構築が急務と思われます。
───抗GAD抗体の測定後、糖尿病の治療をどのように進めていくべきでしょうか
臨床的に2型糖尿病と考えられる症例において、RIA法測定歴の有無にかかわらずELISA法で陽性だった場合は、疾患活動性の高いSPIDDMの可能性が疑われます。Tokyo Studyで示されたように、SPIDDM症例に対しては早期からインスリン治療を行うことでインスリン分泌能を保持できる可能性があるため、インスリン治療をためらわないことが大切です。また、過去にRIA法で陽性だったにもかかわらずELISA法で陰転化が判明した場合も、SPIDDMとして慎重に経過をみる必要があります。
過去にRIA法の測定歴がなくELISA法で陰性だった場合は、通常、2型糖尿病として治療を行います。ただし、治療経過中に血糖コントロールに難渋する場合は、ELISA法陰性のSPIDDM(RIA法陽性)が紛れている可能性や2型糖尿病の経過中に抗GAD抗体が陽転化し1型糖尿病の病態が関わっている可能性などを考慮する必要があるかもしれません。糖尿病の病態評価が困難な場合は、専門医にご相談ください。
糖尿病に対する最善の治療を提供する上で、糖尿病の病態を正しく評価することは非常に重要です。特にSPIDDMは2型糖尿病として治療している患者の中に少なからず潜んでいる可能性があります。糖尿病の診断時や血糖コントロールに難渋する場合には抗GAD抗体を測定し、SPIDDMを含む1型糖尿病の可能性がないかどうか確認することが大切です。
参考文献
1)田中昌一郎ほか, 糖尿病 2011; 54: 65-75.
2)Maruyama T, et al. J Clin Endocrinol Metab 2008; 93: 2115-2121.
3)Kawasaki E et al. Clin Immunol 2011; 138: 146-153.
4)田中昌一郎ほか, 糖尿病 2013; 56: 590-597.
5)Oikawa Y, et al. Diabetol Int 2017 (In press)
6)及川洋一ほか, 医学と薬学 2015; 72: 1551-1560.
7)Oikawa Y, et al. Endocr J 2017; 64: 163-170.
従来は、放射性同位元素を用いたラジオイムノアッセイ(Radioimmunoassay:RIA)法により測定されてきましたが、2015年12月から,Enzyme-Linked Immunosorbent Assay(ELISA)法に切り替わりました。ELISA法は放射性物質を使用しないため測定が簡便になり、Immunology of Diabetes Society(IDS)による性能評価プログラム(Islet Autoantibody Standardization Program:IASPまたはDiabetes Antibody Standardization Program:DASP)において、RIA法と比べて感度、特異度ともに優れていることが示されました。また、RIA法では測定値の単位が国際標準と異なっていたため、海外データと比較する際には単位の変換が必要でしたが、ELISA法では国際標準単位に準拠しているため比較が容易になりました。
───測定法の変更により注意すべき点はありますか
当施設を含む多施設共同研究の結果6)、急性発症1型糖尿病についてはELISA法への変更によって陽性率の増加がみられました(RIA法:80.6%、ELISA法:84.2%;有意差なし)。一方、SPIDDMではRIA法で陽性であったにも関わらずELISA法で陰性となった症例が55例中14例(25.5%)にみられ、陽性率の低下を認めました。特に、RIA法による抗体価を20 U/mL未満の症例に限定した場合、ELISA法で陰性化する割合が高くなっていました(35例中14例;40.0%)。
続いて我々は、過去にRIA法で抗GAD抗体陽性が確認されているSPIDDM症例を対象とし、平均2.41年後に抗GAD抗体をELISA法で測定しました。その結果、63例中42例(66.7%)は陽性のままでしたが、21例(33.3%)は陰転化していることが判明しました7)。各群の臨床像を解析したところ、陽性群では糖尿病発症(診断)後11年以内にインスリン分泌が著明に低下していました。一方、陰転化群では発症(診断)後11年程度まではインスリン分泌は保たれていましたが、11年を過ぎるとインスリン分泌能は陽性群と同程度にまで低下していました。つまり、疾患活動性が高いSPIDDM症例ではELISA法で陽性となり、疾患活動性が低いSPIDDM症例では陰性となる可能性が示唆されました。
わが国では、SPIDDMに関する多くの重要なエビデンスがRIA法によって示されてきたことから、日本糖尿病学会ではRIA法とELISA法の判定結果に乖離が生じた場合は、従来のRIA法の結果を優先して診療を行うよう推奨しています。一方、過去にRIA法の測定歴がない場合は、ELISA法の結果に基づいて病態を評価し治療を行います。ELISA法による新たなエビデンスの構築が急務と思われます。
───抗GAD抗体の測定後、糖尿病の治療をどのように進めていくべきでしょうか
臨床的に2型糖尿病と考えられる症例において、RIA法測定歴の有無にかかわらずELISA法で陽性だった場合は、疾患活動性の高いSPIDDMの可能性が疑われます。Tokyo Studyで示されたように、SPIDDM症例に対しては早期からインスリン治療を行うことでインスリン分泌能を保持できる可能性があるため、インスリン治療をためらわないことが大切です。また、過去にRIA法で陽性だったにもかかわらずELISA法で陰転化が判明した場合も、SPIDDMとして慎重に経過をみる必要があります。
過去にRIA法の測定歴がなくELISA法で陰性だった場合は、通常、2型糖尿病として治療を行います。ただし、治療経過中に血糖コントロールに難渋する場合は、ELISA法陰性のSPIDDM(RIA法陽性)が紛れている可能性や2型糖尿病の経過中に抗GAD抗体が陽転化し1型糖尿病の病態が関わっている可能性などを考慮する必要があるかもしれません。糖尿病の病態評価が困難な場合は、専門医にご相談ください。
糖尿病に対する最善の治療を提供する上で、糖尿病の病態を正しく評価することは非常に重要です。特にSPIDDMは2型糖尿病として治療している患者の中に少なからず潜んでいる可能性があります。糖尿病の診断時や血糖コントロールに難渋する場合には抗GAD抗体を測定し、SPIDDMを含む1型糖尿病の可能性がないかどうか確認することが大切です。
参考文献
1)田中昌一郎ほか, 糖尿病 2011; 54: 65-75.
2)Maruyama T, et al. J Clin Endocrinol Metab 2008; 93: 2115-2121.
3)Kawasaki E et al. Clin Immunol 2011; 138: 146-153.
4)田中昌一郎ほか, 糖尿病 2013; 56: 590-597.
5)Oikawa Y, et al. Diabetol Int 2017 (In press)
6)及川洋一ほか, 医学と薬学 2015; 72: 1551-1560.
7)Oikawa Y, et al. Endocr J 2017; 64: 163-170.
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