甲状腺疾患の鑑別診断における抗TSH受容体抗体測定の重要性 甲状腺疾患 | 臨床検査薬(体外診断用医薬品・研究用試薬)の株式会社コスミック コーポレーション
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甲状腺疾患の鑑別診断における抗TSH受容体抗体測定の重要性
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上條甲状腺クリニック・上條甲状腺研究所
院長 上條桂一(かみじょう けいいち)先生
1984年〜1985年 トロント大学Kovacs研究室留学
1991年 札幌医科大学助教授
1994年 北海道で初めての甲状腺疾患を専門とする上條内科クリニック設立
1995年 有限会社上條甲状腺研究所設立
2005年 日本甲状腺学会認定専門医施設
2011年 第11回日本内分泌病理学会会長(札幌)
2016年 上條甲状腺クリニックに名称変更
院長 上條桂一(かみじょう けいいち)先生
1984年〜1985年 トロント大学Kovacs研究室留学
1991年 札幌医科大学助教授
1994年 北海道で初めての甲状腺疾患を専門とする上條内科クリニック設立
1995年 有限会社上條甲状腺研究所設立
2005年 日本甲状腺学会認定専門医施設
2011年 第11回日本内分泌病理学会会長(札幌)
2016年 上條甲状腺クリニックに名称変更
血液中の甲状腺ホルモンが増加する甲状腺中毒症の代表的な疾患はバセドウ病ですが、次に頻度が高いのはバセドウ病と類似の症状を呈する無痛性甲状腺炎、次いで亜急性甲状腺炎、中毒性結節性甲状腺腫、さらに女性では妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症などがあり、治療法も異なるため鑑別診断が重要です。甲状腺中毒症は遊離サイロキシン(FT4)および遊離トリヨードサイロニン(FT3)の甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定で診断し、抗TSH受容体抗体(TRAb)の測定で陽性を示すバセドウ病と陰性の他の疾患を鑑別することが診断の第一歩となります。
そこで、北海道で初めての甲状腺専門医院である上條甲状腺クリニックを開設された上條桂一先生に、甲状腺機能亢進症/甲状腺中毒症の鑑別とTRAb測定の重要性について、お話を伺いました。
そこで、北海道で初めての甲状腺専門医院である上條甲状腺クリニックを開設された上條桂一先生に、甲状腺機能亢進症/甲状腺中毒症の鑑別とTRAb測定の重要性について、お話を伺いました。
甲状腺機能亢進症/甲状腺中毒症にはバセドウ病と類似の疾患が存在
───甲状腺機能亢進症/甲状腺中毒症にはどのような疾患があるのでしょうか
当クリニックにおける初診時の未治療甲状腺中毒症としてはバセドウ病が最も多く、その内訳は、女性でバセドウ病67.6%、無痛性甲状腺炎17.6%、亜急性甲状腺炎10.4%、妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症2.6%、そして中毒性結節性甲状腺腫1.8%、男性ではバセドウ病79.8%、無痛性甲状腺炎13.8%、亜急性甲状腺炎5.4%、そして中毒性結節性甲状腺腫1.0%の順です。
バセドウ病と無痛性甲状腺炎はどちらも易疲労感、倦怠感、動悸、集中力低下、神経過敏といった甲状腺機能亢進症/甲状腺中毒症の症状が見られます。ただし、無痛性甲状腺炎は甲状腺中毒症を来す期間が1〜3ヵ月と短く、FT3値およびFT4値いずれもバセドウ病に比較して有意に低いため、バセドウ病と比べて症状の出現頻度は低く、軽症です。甲状腺重量もバセドウ病で有意に大きく、バセドウ病のほぼ全例で甲状腺腫を触知できますが、無痛性甲状腺炎では半数にとどまります。また、無痛性甲状腺炎では甲状腺に亜急性甲状腺炎のような痛みや圧痛はなく、バセドウ病のような血管雑音も認めません。
無痛性甲状腺炎は、一部の例外を除きその多くが橋本病を基礎疾患として発症する一過性の破壊性甲状腺中毒症です。破壊された甲状腺から逸脱した甲状腺ホルモンにより甲状腺中毒症を来しますが、1〜3ヵ月で自然治癒するため治療は行わず経過観察とします。一方、バセドウ病はTRAbにより甲状腺ホルモンの合成・分泌が増加する甲状腺機能亢進症であり、治療を行わなければ仕事中ないし運動中などに息切れ、易疲労感、動悸、イライラ感、筋力低下などのために日常生活に大きな支障を来します。また、放置すれば抜歯や手術、麻酔等を契機に、生命に関わる疾患である甲状腺クリーゼに陥るリスクがあります。したがって、バセドウ病を正確に診断し、抗甲状腺薬などの薬物療法を中心に、適応があれば放射線ヨードを内服する131I内服療法や外科治療を行う必要があります。
当クリニックにおける初診時の未治療甲状腺中毒症としてはバセドウ病が最も多く、その内訳は、女性でバセドウ病67.6%、無痛性甲状腺炎17.6%、亜急性甲状腺炎10.4%、妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症2.6%、そして中毒性結節性甲状腺腫1.8%、男性ではバセドウ病79.8%、無痛性甲状腺炎13.8%、亜急性甲状腺炎5.4%、そして中毒性結節性甲状腺腫1.0%の順です。
バセドウ病と無痛性甲状腺炎はどちらも易疲労感、倦怠感、動悸、集中力低下、神経過敏といった甲状腺機能亢進症/甲状腺中毒症の症状が見られます。ただし、無痛性甲状腺炎は甲状腺中毒症を来す期間が1〜3ヵ月と短く、FT3値およびFT4値いずれもバセドウ病に比較して有意に低いため、バセドウ病と比べて症状の出現頻度は低く、軽症です。甲状腺重量もバセドウ病で有意に大きく、バセドウ病のほぼ全例で甲状腺腫を触知できますが、無痛性甲状腺炎では半数にとどまります。また、無痛性甲状腺炎では甲状腺に亜急性甲状腺炎のような痛みや圧痛はなく、バセドウ病のような血管雑音も認めません。
無痛性甲状腺炎は、一部の例外を除きその多くが橋本病を基礎疾患として発症する一過性の破壊性甲状腺中毒症です。破壊された甲状腺から逸脱した甲状腺ホルモンにより甲状腺中毒症を来しますが、1〜3ヵ月で自然治癒するため治療は行わず経過観察とします。一方、バセドウ病はTRAbにより甲状腺ホルモンの合成・分泌が増加する甲状腺機能亢進症であり、治療を行わなければ仕事中ないし運動中などに息切れ、易疲労感、動悸、イライラ感、筋力低下などのために日常生活に大きな支障を来します。また、放置すれば抜歯や手術、麻酔等を契機に、生命に関わる疾患である甲状腺クリーゼに陥るリスクがあります。したがって、バセドウ病を正確に診断し、抗甲状腺薬などの薬物療法を中心に、適応があれば放射線ヨードを内服する131I内服療法や外科治療を行う必要があります。
TRAb測定によりバセドウ病と無痛性甲状腺炎を鑑別
───どのようにしてバセドウ病と無痛性甲状腺炎を鑑別するのでしょうか
いずれも既述のごとくFT4値およびFT3値が高値でTSH 0.1μU/mL以下を示す甲状腺中毒症を代表する疾患ですが、TRAbを測定し、陽性であればバセドウ病、陰性であれば無痛性甲状腺炎と診断することで大部分の症例は鑑別できます。当クリニックの成績では、未治療バセドウ病患者のTRAb陽性率は96.4%、陰性率は3.6%、そして無痛性甲状腺炎患者のTRAb陰性率は98.5%、陽性率は1.5%です。
TRAb値の分布別にバセドウ病と無痛性甲状腺炎の占める割合について当クリニックの成績を紹介すると、TRAb値0.3IU/L以下は全例無痛性甲状腺炎であり、TRAb値0.4 - 0.8IU/Lはバセドウ病が1.8%、無痛性甲状腺炎が98.2%の結果からTRAb値0.8IU/L以下は無痛性甲状腺炎と診断して良く、経過観察で自然に甲状腺中毒症が治癒することで最終的に無痛性甲状腺炎と診断できます。また、TRAb値3.0IU/L以上はバセドウ病99.8%、無痛性甲状腺炎0.2%の結果から、TRAb値3.0IU/L以上はバセドウ病と診断できます。
なお、TRAb値0.9 - 2.0IU/Lは無痛性甲状腺炎60.4%、バセドウ病39.6%の結果から、gray zone negativeと呼称し、カラードプラ超音波を用いて甲状腺血管密度・血流速度を測定して診断を行い、それでも確定診断に至らない場合にはTc-99m摂取率を測定します。TRAb値>2.0から3.0IU/L未満は91.5%バセドウ病、8.5%無痛性甲状腺炎ですので、バセドウ病の確率は高いのですが、gray zone positiveと呼称し、カラードプラ超音波検査、それでも診断に至らない場合は、Tc-99m摂取率の測定を実施しています。
───初診患者さんを診断する際の注意点を教えてください
受診のきっかけとなる甲状腺中毒症の代表的な症状を見逃さないことが重要です。甲状腺眼症はバセドウ病と診断された患者さんの33.4%が自覚症状として認められ、甲状腺腫の血管雑音と同様に診断的所見です。びまん性対称性甲状腺腫は大部分のバセドウ病患者で触知しますが、無痛性甲状腺炎の症例では半数程度です。
甲状腺部分に自然痛および圧痛が認められる場合は亜急性甲状腺炎が疑われます。発熱を伴い、検査でCRP陽性、そして超音波所見で境界不明瞭、内部に血流を認めない低エコー域があれば診断を確定できます。また、理学所見および超音波所見で結節性甲状腺腫を認め、シンチグラフィによりその結節部位にTc-99m(または123I)が集積するhot nodule(高摂取結節)を証明することにより中毒性結節性甲状腺腫と診断できます。
いずれも既述のごとくFT4値およびFT3値が高値でTSH 0.1μU/mL以下を示す甲状腺中毒症を代表する疾患ですが、TRAbを測定し、陽性であればバセドウ病、陰性であれば無痛性甲状腺炎と診断することで大部分の症例は鑑別できます。当クリニックの成績では、未治療バセドウ病患者のTRAb陽性率は96.4%、陰性率は3.6%、そして無痛性甲状腺炎患者のTRAb陰性率は98.5%、陽性率は1.5%です。
TRAb値の分布別にバセドウ病と無痛性甲状腺炎の占める割合について当クリニックの成績を紹介すると、TRAb値0.3IU/L以下は全例無痛性甲状腺炎であり、TRAb値0.4 - 0.8IU/Lはバセドウ病が1.8%、無痛性甲状腺炎が98.2%の結果からTRAb値0.8IU/L以下は無痛性甲状腺炎と診断して良く、経過観察で自然に甲状腺中毒症が治癒することで最終的に無痛性甲状腺炎と診断できます。また、TRAb値3.0IU/L以上はバセドウ病99.8%、無痛性甲状腺炎0.2%の結果から、TRAb値3.0IU/L以上はバセドウ病と診断できます。
なお、TRAb値0.9 - 2.0IU/Lは無痛性甲状腺炎60.4%、バセドウ病39.6%の結果から、gray zone negativeと呼称し、カラードプラ超音波を用いて甲状腺血管密度・血流速度を測定して診断を行い、それでも確定診断に至らない場合にはTc-99m摂取率を測定します。TRAb値>2.0から3.0IU/L未満は91.5%バセドウ病、8.5%無痛性甲状腺炎ですので、バセドウ病の確率は高いのですが、gray zone positiveと呼称し、カラードプラ超音波検査、それでも診断に至らない場合は、Tc-99m摂取率の測定を実施しています。
───初診患者さんを診断する際の注意点を教えてください
受診のきっかけとなる甲状腺中毒症の代表的な症状を見逃さないことが重要です。甲状腺眼症はバセドウ病と診断された患者さんの33.4%が自覚症状として認められ、甲状腺腫の血管雑音と同様に診断的所見です。びまん性対称性甲状腺腫は大部分のバセドウ病患者で触知しますが、無痛性甲状腺炎の症例では半数程度です。
甲状腺部分に自然痛および圧痛が認められる場合は亜急性甲状腺炎が疑われます。発熱を伴い、検査でCRP陽性、そして超音波所見で境界不明瞭、内部に血流を認めない低エコー域があれば診断を確定できます。また、理学所見および超音波所見で結節性甲状腺腫を認め、シンチグラフィによりその結節部位にTc-99m(または123I)が集積するhot nodule(高摂取結節)を証明することにより中毒性結節性甲状腺腫と診断できます。
バセドウ病の治療におけるTRAb測定の意義
───バセドウ病と診断後、治療開始と中止の基準を教えてください
当クリニックでは、未治療バセドウ病例でFT4値が4.0ng/dL未満のであればKI 50mg/日投与で治療を開始します。FT4値が4.0ng/dL〜7.0ng/dL未満であればチアマゾール15mg朝1回投与で開始し、FT4値が7.0ng/dL以上ではチアマゾール15mgとKI 100mgの朝1回併用療法を実施しております。
一方、当クリニックでは薬物療法を中止する際の絶対条件として禁煙を掲げています。その上で、免疫学的寛解を指標に中止の判断をしております。具体的には、抗甲状腺薬投与後、TRAb値が陰性であることを数回確認した上で抗甲状腺薬の最少投与維持療法を開始し、半年以上甲状腺機能が正常な状態が維持できれば、患者さんと中止後の予後について相談の上薬物療法を中止します。当クリニックの予後に関する最近の成績では、中止後3年寛解率は76%、そして再発率は24%です。なお、寛解群および再発群の抗甲状腺薬投与期間はいずれも平均22ヵ月です。最近、Thyroidに掲載されたTunらの報告1)によれば、抗甲状腺薬を平均18ヵ月投与後に、TRAb値の陽性・陰性に関わらずに中止した場合の3年寛解率は51.2%、そして再発率48.8%の結果を示しました。
この結果に比較して、免疫学的寛解を指標として中止した当クリニックの寛解率の方が有意に高いことが解ります。
───バセドウ病の再発予測についてはいかがでしょうか
当クリニックの成績では、寛解例および再発例の治療期間は既述のごとくいずれも平均22ヵ月です。治療中止時の年齢、血清FT4、FT3、TSHおよびTRAbのそれぞれの値、甲状腺重量、およびアレルギー性鼻炎の頻度は寛解群および再発群との間にいずれも有意差を認めません。治療前のデータの比較では、寛解例と再発例のFT4、FT3、TRAb、および甲状腺重量に有意差はありませんでした。ただし、甲状腺重量が60g以上の症例では寛解率が低いことが示されています。また、治療前に喫煙していたとしても、その後に禁煙すれば非喫煙者と寛解率に差はありませんでした。
一方、Tunらの成績1)では、薬物療法中止時TRAb陽性例は、TRAb陰性例に比較して中止1〜3年後のいずれにおいても再発率が有意に高い結果を示しました。参考までにその詳細を紹介すると、1年後再発率はTRAb陽性例47.1% vs. 陰性例23.1%、2年後再発率はTRAb陽性例65.5% vs. 陰性例34.0%および3年再発率はTRAb陽性例62.0% vs 陰性例43.4%とTRAb陽性例で有意に高かったことから、中止時にTRAb陰性の症例、即ち免疫学的寛解を達成していることが重要であり、中止時のTRAb陽性は再発の重要な予測因子であると言えます。
当クリニックの免疫学的寛解+最少維持療法後に中止する方法では、1年再発率20.3%、2年後24.6%および3年後31.7%とTunらの抗甲状腺薬18ヵ月投与後に突然中止した場合の中止時TRAb陰性例の再発率より有意に低く予後が良いことから、抗甲状腺薬中止前の最少維持療法導入の有用性が確認されました。
当クリニックでは、未治療バセドウ病例でFT4値が4.0ng/dL未満のであればKI 50mg/日投与で治療を開始します。FT4値が4.0ng/dL〜7.0ng/dL未満であればチアマゾール15mg朝1回投与で開始し、FT4値が7.0ng/dL以上ではチアマゾール15mgとKI 100mgの朝1回併用療法を実施しております。
一方、当クリニックでは薬物療法を中止する際の絶対条件として禁煙を掲げています。その上で、免疫学的寛解を指標に中止の判断をしております。具体的には、抗甲状腺薬投与後、TRAb値が陰性であることを数回確認した上で抗甲状腺薬の最少投与維持療法を開始し、半年以上甲状腺機能が正常な状態が維持できれば、患者さんと中止後の予後について相談の上薬物療法を中止します。当クリニックの予後に関する最近の成績では、中止後3年寛解率は76%、そして再発率は24%です。なお、寛解群および再発群の抗甲状腺薬投与期間はいずれも平均22ヵ月です。最近、Thyroidに掲載されたTunらの報告1)によれば、抗甲状腺薬を平均18ヵ月投与後に、TRAb値の陽性・陰性に関わらずに中止した場合の3年寛解率は51.2%、そして再発率48.8%の結果を示しました。
この結果に比較して、免疫学的寛解を指標として中止した当クリニックの寛解率の方が有意に高いことが解ります。
───バセドウ病の再発予測についてはいかがでしょうか
当クリニックの成績では、寛解例および再発例の治療期間は既述のごとくいずれも平均22ヵ月です。治療中止時の年齢、血清FT4、FT3、TSHおよびTRAbのそれぞれの値、甲状腺重量、およびアレルギー性鼻炎の頻度は寛解群および再発群との間にいずれも有意差を認めません。治療前のデータの比較では、寛解例と再発例のFT4、FT3、TRAb、および甲状腺重量に有意差はありませんでした。ただし、甲状腺重量が60g以上の症例では寛解率が低いことが示されています。また、治療前に喫煙していたとしても、その後に禁煙すれば非喫煙者と寛解率に差はありませんでした。
一方、Tunらの成績1)では、薬物療法中止時TRAb陽性例は、TRAb陰性例に比較して中止1〜3年後のいずれにおいても再発率が有意に高い結果を示しました。参考までにその詳細を紹介すると、1年後再発率はTRAb陽性例47.1% vs. 陰性例23.1%、2年後再発率はTRAb陽性例65.5% vs. 陰性例34.0%および3年再発率はTRAb陽性例62.0% vs 陰性例43.4%とTRAb陽性例で有意に高かったことから、中止時にTRAb陰性の症例、即ち免疫学的寛解を達成していることが重要であり、中止時のTRAb陽性は再発の重要な予測因子であると言えます。
当クリニックの免疫学的寛解+最少維持療法後に中止する方法では、1年再発率20.3%、2年後24.6%および3年後31.7%とTunらの抗甲状腺薬18ヵ月投与後に突然中止した場合の中止時TRAb陰性例の再発率より有意に低く予後が良いことから、抗甲状腺薬中止前の最少維持療法導入の有用性が確認されました。
妊娠中、出産後の甲状腺機能亢進症/甲状腺中毒症にも注意が必要
───妊娠中の症状と注意点についてご解説ください
妊娠初期の甲状腺中毒症の場合は妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症と妊娠時発症バセドウ病との鑑別が必要です。妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症は妊娠7〜15週にピークを示すヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)が、甲状腺ホルモンの合成・分泌を促進することにより出現します。文献からの報告を紹介すると、hCG濃度が50,000 - 75,000IU/Lを超えると甲状腺ホルモン過剰産生の引き金と成り得ること2)、200,000 - 400,000IU/Lでは妊婦の67%でTSH値が抑制され、400,000IU/L以上では全妊婦のTSH値が抑制されることが証明されています3)。
妊娠中発症したバセドウ病はTRAb陽性、そして妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症はTRAb陰性で診断が確定しますから、TRAbを測定すれば両者の鑑別に困難はありません。多くの場合、妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症の妊婦では妊娠悪阻を認めますが、妊娠中のバセドウ病には認められず、手指振戦、多汗、耐暑性低下、下肢浮腫はバセドウ病で出現し、動悸、息切れの症状は両者で認められます。
───出産後の症状と注意点についてご解説ください
出産後に出現する甲状腺中毒症はバセドウ病と無痛性甲状腺炎(出産後甲状腺炎)であり、基本的には既述の出産後以外の甲状腺中毒症と同様に鑑別診断ができます。出産後発症の甲状腺中毒症の特徴としては発症時期の違いが挙げられます。出産後甲状腺炎は、85%が出産1〜4ヵ月後に発症し、5〜8ヵ月後では15%、8〜14ヵ月後には認められません。一方、バセドウ病の発症は出産1〜4ヵ月後には17%であり、5〜8ヵ月後は63%、8〜14ヵ月後が20%と出産後甲状腺炎に比較して遅く発症するのが特徴です。
───胎児や新生児に対する影響についてはいかがでしょうか
胎児甲状腺機能亢進症は極めてまれな疾患であり、下垂体−甲状腺系が完成する妊娠20週以降に、過去に131I内用療法および外科手術後の妊婦でTRAb高値の症例、無治療ないし抗甲状腺薬コンプライアンス不良例のバセドウ病症例などで報告されています。胎児甲状腺機能亢進症は治療しなければ死亡率が58.3%という報告がありますが、母親が抗甲状腺薬により治療を行っていれば、薬剤が胎盤を通過し、胎児の甲状腺機能も正常にコントロールされることから心配ありません。
また、母親のTRAbが胎盤から胎児に移行した結果、出産後に新生児甲状腺機能亢進症を来すことがあります。治療を行わなければ心不全等による生命のリスクがありますので、早期診断と適切な治療が必要になります。そこで、妊娠後期から新生児甲状腺機能亢進症を予測し、出生前に診断と治療の準備を行うことが重要です。妊娠後期の母親のTRAb値が10IU/L未満では新生児甲状腺機能亢進症の発症経験は当クリニックではありません。自験例ではTRAb値が10IU/L以上の妊婦から出産した新生児の約38%で新生児甲状腺機能亢進症が認められました。なお、母親由来のTRAbが消失する産後3ヵ月以内には自然に治癒します。
以上、バセドウ病における甲状腺機能亢進症はTRAbが原因であることから、当然TRAbは陽性であり、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、中毒性結節性甲状腺腫、および妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症などはTRAbが陰性を示すことから、甲状腺中毒症の鑑別診断の第一歩はTRAbを測定することです。また、バセドウ病と診断された後には、抗甲状腺薬の減量そして中止の判定指標として、さらには、中止後にバセドウ病が再発した場合にはその診断検査として、TRAbの測定は必須であり、甲状腺診療の基本的知識としてTRAb測定の臨床応用の重要性をあらためて周知する必要があると考えています。
1) Tun NN, et al. Thyroid 2016; 26: 1004-1009.
2) Glinoer D. Endocr Rev 1997; 18: 404-433.
3) Lockwood CM, et al. Thyroid 2009; 19: 863-868.
妊娠初期の甲状腺中毒症の場合は妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症と妊娠時発症バセドウ病との鑑別が必要です。妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症は妊娠7〜15週にピークを示すヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)が、甲状腺ホルモンの合成・分泌を促進することにより出現します。文献からの報告を紹介すると、hCG濃度が50,000 - 75,000IU/Lを超えると甲状腺ホルモン過剰産生の引き金と成り得ること2)、200,000 - 400,000IU/Lでは妊婦の67%でTSH値が抑制され、400,000IU/L以上では全妊婦のTSH値が抑制されることが証明されています3)。
妊娠中発症したバセドウ病はTRAb陽性、そして妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症はTRAb陰性で診断が確定しますから、TRAbを測定すれば両者の鑑別に困難はありません。多くの場合、妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症の妊婦では妊娠悪阻を認めますが、妊娠中のバセドウ病には認められず、手指振戦、多汗、耐暑性低下、下肢浮腫はバセドウ病で出現し、動悸、息切れの症状は両者で認められます。
───出産後の症状と注意点についてご解説ください
出産後に出現する甲状腺中毒症はバセドウ病と無痛性甲状腺炎(出産後甲状腺炎)であり、基本的には既述の出産後以外の甲状腺中毒症と同様に鑑別診断ができます。出産後発症の甲状腺中毒症の特徴としては発症時期の違いが挙げられます。出産後甲状腺炎は、85%が出産1〜4ヵ月後に発症し、5〜8ヵ月後では15%、8〜14ヵ月後には認められません。一方、バセドウ病の発症は出産1〜4ヵ月後には17%であり、5〜8ヵ月後は63%、8〜14ヵ月後が20%と出産後甲状腺炎に比較して遅く発症するのが特徴です。
───胎児や新生児に対する影響についてはいかがでしょうか
胎児甲状腺機能亢進症は極めてまれな疾患であり、下垂体−甲状腺系が完成する妊娠20週以降に、過去に131I内用療法および外科手術後の妊婦でTRAb高値の症例、無治療ないし抗甲状腺薬コンプライアンス不良例のバセドウ病症例などで報告されています。胎児甲状腺機能亢進症は治療しなければ死亡率が58.3%という報告がありますが、母親が抗甲状腺薬により治療を行っていれば、薬剤が胎盤を通過し、胎児の甲状腺機能も正常にコントロールされることから心配ありません。
また、母親のTRAbが胎盤から胎児に移行した結果、出産後に新生児甲状腺機能亢進症を来すことがあります。治療を行わなければ心不全等による生命のリスクがありますので、早期診断と適切な治療が必要になります。そこで、妊娠後期から新生児甲状腺機能亢進症を予測し、出生前に診断と治療の準備を行うことが重要です。妊娠後期の母親のTRAb値が10IU/L未満では新生児甲状腺機能亢進症の発症経験は当クリニックではありません。自験例ではTRAb値が10IU/L以上の妊婦から出産した新生児の約38%で新生児甲状腺機能亢進症が認められました。なお、母親由来のTRAbが消失する産後3ヵ月以内には自然に治癒します。
以上、バセドウ病における甲状腺機能亢進症はTRAbが原因であることから、当然TRAbは陽性であり、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、中毒性結節性甲状腺腫、および妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症などはTRAbが陰性を示すことから、甲状腺中毒症の鑑別診断の第一歩はTRAbを測定することです。また、バセドウ病と診断された後には、抗甲状腺薬の減量そして中止の判定指標として、さらには、中止後にバセドウ病が再発した場合にはその診断検査として、TRAbの測定は必須であり、甲状腺診療の基本的知識としてTRAb測定の臨床応用の重要性をあらためて周知する必要があると考えています。
1) Tun NN, et al. Thyroid 2016; 26: 1004-1009.
2) Glinoer D. Endocr Rev 1997; 18: 404-433.
3) Lockwood CM, et al. Thyroid 2009; 19: 863-868.
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