変化してきたMG治療のあり方と抗体測定/ 九州大学大学院医学研究院 脳神経治療学寄附講座 教授 村井弘之先生 神経疾患 | 臨床検査薬(体外診断用医薬品・研究用試薬)の株式会社コスミック コーポレーション
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神経疾患重症筋無力症(MG)
変化してきたMG治療のあり方と抗体測定/ 九州大学大学院医学研究院 脳神経治療学寄附講座 教授 村井弘之先生
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九州大学大学院医学研究院 脳神経治療学寄附講座
教授 村井弘之(むらい ひろゆき) 先生
1981年3月 福岡県立修猷館高校卒業
1988年3月 九州大学医学部卒業
1988年6月 九州大学病院 研修医
1990年6月 広島赤十字・原爆病院 神経内科
1991年6月 九州大学病院 医員
1995年1月 米国ロズウェル・パーク癌研究所 留学
(Department of Neurology)
1998年4月 九州厚生年金病院 神経内科 医長
2000年4月 九州大学病院 神経内科 助手
2005年8月 同 講師
2007年4月 飯塚病院 神経内科 部長 兼 脳卒中センター長
2012年10月 九州大学大学院医学研究院 神経内科学 准教授
2015年7月 九州大学大学院医学研究院 神経治療学寄附講座 教授
2015年10月 九州大学大学院医学研究院 脳神経治療学寄附講座
教授(名称変更)
教授 村井弘之(むらい ひろゆき) 先生
1981年3月 福岡県立修猷館高校卒業
1988年3月 九州大学医学部卒業
1988年6月 九州大学病院 研修医
1990年6月 広島赤十字・原爆病院 神経内科
1991年6月 九州大学病院 医員
1995年1月 米国ロズウェル・パーク癌研究所 留学
(Department of Neurology)
1998年4月 九州厚生年金病院 神経内科 医長
2000年4月 九州大学病院 神経内科 助手
2005年8月 同 講師
2007年4月 飯塚病院 神経内科 部長 兼 脳卒中センター長
2012年10月 九州大学大学院医学研究院 神経内科学 准教授
2015年7月 九州大学大学院医学研究院 神経治療学寄附講座 教授
2015年10月 九州大学大学院医学研究院 脳神経治療学寄附講座
教授(名称変更)
自己免疫疾患である重症筋無力症(MG)の診断において、抗アセチルコリンレセプター抗体(抗AChR抗体)や抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体(抗MuSK抗体)といった自己抗体検査は、重要な役割を担っています。また近年では、検出された自己抗体によって有効な治療法が異なることも明らかになりつつあります。
そこで今回は、日本神経学会 重症筋無力症診療ガイドライン作成委員で九州大学大学院医学研究院 脳神経治療学寄附講座 教授の村井弘之先生に、最新のガイドラインに基づくMGの治療と自己抗体検査の役割について、お話しを伺いました。
そこで今回は、日本神経学会 重症筋無力症診療ガイドライン作成委員で九州大学大学院医学研究院 脳神経治療学寄附講座 教授の村井弘之先生に、最新のガイドラインに基づくMGの治療と自己抗体検査の役割について、お話しを伺いました。
高用量ステロイド薬による副作用のリスクが問題に
2014年に行われた重症筋無力症診療ガイドラインの改定について、村井先生は、「今日ではMG第二の特異抗体として知られる抗MuSK抗体は、2003年の時点ですでに発見されていましたが、一般的に測定はされていませんでした。それが2013年に保険適応となり、一般化してきたことは大きな変化だったと言えるでしょう」そして「前回のガイドライン(2003年発行)から10年あまりが過ぎ、臨床現場におけるMGの治療とそぐわない点が出てきていました」とその必要性を語ります。その例として、ステロイド薬の使用方法が挙げられるといいます。
成人期発症全身型MGの場合、それまでの使用方法では、漸増して高用量を長く使い、その後、漸減していくというものが主体でした。しかし、「この方法では、ステロイド薬による副作用が無視できなくなっていたのです」と村井先生。ステロイド薬を高用量使用することは、骨粗しょう症やそれによる脊椎圧迫骨折のリスクを高める可能性があります。また、「研究によると、MG患者さんの生活の質(QOL)を定量化し、ステロイド薬の内服量と比較したところ、ステロイド薬が多くなるとQOLが低下するということも分かってきました」と高用量のステロイド薬を長期間使用することのQOLへの影響も語ります。
ステロイド薬の登場により、MGの生命予後は改善し、死亡率も低くなりました。しかしながら、1940年代と比べても現在の寛解率はそれほど変わっていません。こうした背景から、村井先生は、「治療が長く続くMGにおいては、治療を的確に行うこととともに、患者さんのQOLを可能な限り維持することも求められています」と患者さんのQOLを保つことが、MGの治療では重要といいます。
成人期発症全身型MGの場合、それまでの使用方法では、漸増して高用量を長く使い、その後、漸減していくというものが主体でした。しかし、「この方法では、ステロイド薬による副作用が無視できなくなっていたのです」と村井先生。ステロイド薬を高用量使用することは、骨粗しょう症やそれによる脊椎圧迫骨折のリスクを高める可能性があります。また、「研究によると、MG患者さんの生活の質(QOL)を定量化し、ステロイド薬の内服量と比較したところ、ステロイド薬が多くなるとQOLが低下するということも分かってきました」と高用量のステロイド薬を長期間使用することのQOLへの影響も語ります。
ステロイド薬の登場により、MGの生命予後は改善し、死亡率も低くなりました。しかしながら、1940年代と比べても現在の寛解率はそれほど変わっていません。こうした背景から、村井先生は、「治療が長く続くMGにおいては、治療を的確に行うこととともに、患者さんのQOLを可能な限り維持することも求められています」と患者さんのQOLを保つことが、MGの治療では重要といいます。
カルシニューリン阻害薬、血液浄化療法の早期導入が可能に
患者さんのQOLを維持する手段として、2000年以降に保険適応となった免疫抑制薬(カルシニューリン阻害薬)の「タクロリムス」や「シクロスポリン」、強力な治療法である「免疫グロブリン大量療法」など、こうした新たな治療手段の登場も2014年のガイドライン改定の契機だったと村井先生は語ります。
ガイドライン改定前、カルシニューリン阻害薬は、胸腺摘除を行った上でステロイド薬を投与する一般的な治療を行ったにもかかわらず効果が出ない症例で使用されていました。それが今回の改定により、罹病期間が短いうちからカルシニューリン阻害薬を使用することが推奨されました(グレードC1)。また、血液浄化療法やステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量療法といった強力な治療法は、これまで上記の一般的な治療を行っても増悪した場合に使われていました。
村井先生は、「強力な治療法についても病初期に行うことで、ステロイド薬を増量しなくて済むという狙いがあります。カルシニューリン阻害薬も、血液浄化療法などの強力な治療も、早期に行うことでステロイド薬の量を抑えることができ、MG患者さんのQOLを保つことを目指すという考え方は同じです」と語ります。
しかし、以前と比べて早期に強力な治療を行うようになったとはいえ、「どんなMGでも強力な治療を行うというわけではありません」と村井先生は警鐘を鳴らします。成人期発症全身型MGの場合、低用量のステロイド薬から治療をはじめ、カルシニューリン阻害薬を使用するというのが通常の治療法です。「これらの治療で、反応がよくない場合は、強力な治療を選択するのがよいと思います」(村井先生)
ガイドライン改定前、カルシニューリン阻害薬は、胸腺摘除を行った上でステロイド薬を投与する一般的な治療を行ったにもかかわらず効果が出ない症例で使用されていました。それが今回の改定により、罹病期間が短いうちからカルシニューリン阻害薬を使用することが推奨されました(グレードC1)。また、血液浄化療法やステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量療法といった強力な治療法は、これまで上記の一般的な治療を行っても増悪した場合に使われていました。
村井先生は、「強力な治療法についても病初期に行うことで、ステロイド薬を増量しなくて済むという狙いがあります。カルシニューリン阻害薬も、血液浄化療法などの強力な治療も、早期に行うことでステロイド薬の量を抑えることができ、MG患者さんのQOLを保つことを目指すという考え方は同じです」と語ります。
しかし、以前と比べて早期に強力な治療を行うようになったとはいえ、「どんなMGでも強力な治療を行うというわけではありません」と村井先生は警鐘を鳴らします。成人期発症全身型MGの場合、低用量のステロイド薬から治療をはじめ、カルシニューリン阻害薬を使用するというのが通常の治療法です。「これらの治療で、反応がよくない場合は、強力な治療を選択するのがよいと思います」(村井先生)
自己抗体の違いで効果に差がでる治療法 ---抗MuSK抗体陽性MGにおいて、胸腺摘除は無効
次にMG患者さんによく見られる胸腺腫について、村井先生は、「胸腺腫がある場合、原則として摘除を行います。胸腺腫がない場合、若年層では胸腺過形成が起こり、病理学的に胚中心が見られる可能性があります。その場合は摘除してもよいと考えられますが、50歳を越えた後期発症の場合は、胸腺摘除をする意味はあまりありません」と、その違いを説明してくれました。
さらに、発現している抗体によっても摘除の可否は変わるといいます。「抗MuSK抗体陽性の場合、胸腺の異常はほとんど見られないため、通常摘除を行うことはありません」と村井先生は語り、年齢と発現している抗体によって、胸腺を摘除するかどうかを判断するといいます。
成人期発症全身型MGの患者さんでは、抗AChR抗体陽性の場合も抗MuSK抗体陽性の場合も、基本的な治療法は変わりません。しかし、抗MuSK抗体陽性の場合は、注意が必要な点もあります。村井先生は、「MG治療では、対症療法として抗コリンエステラーゼ薬がよく使用されますが、抗MuSK抗体陽性の患者さんでは、効果がみられないばかりか逆に悪化する場合もあります。また、抗MuSK抗体陽性MGでは胸腺の異常はほとんど報告されていないため、先述した通り胸腺摘除は行いません」と語ります。
血液浄化療法の「単純血漿交換」と「免疫吸着療法」は同じような効果だといわれていますが、これについて村井先生は、「抗MuSK抗体陽性では単純血漿交換のほうが有効であり、免疫吸着療法は効果が劣ります」と、方法によって効果が異なることを紹介。「抗MuSK抗体が免疫吸着療法で使用されるトリプトファンカラムにはつきにくいためと考えられます」と、その理由を語りました。
また、現在国内で治験中の「エクリズマブ」について、「抗AChR抗体陽性の患者さんには有効と考えられていますが、抗MuSK抗体陽性の場合は効かないであろう、といわれています」と最新の研究状況を紹介。「抗体を測定することが、治療の精度を高めていくことにつながります」と語りました。
さらに、発現している抗体によっても摘除の可否は変わるといいます。「抗MuSK抗体陽性の場合、胸腺の異常はほとんど見られないため、通常摘除を行うことはありません」と村井先生は語り、年齢と発現している抗体によって、胸腺を摘除するかどうかを判断するといいます。
成人期発症全身型MGの患者さんでは、抗AChR抗体陽性の場合も抗MuSK抗体陽性の場合も、基本的な治療法は変わりません。しかし、抗MuSK抗体陽性の場合は、注意が必要な点もあります。村井先生は、「MG治療では、対症療法として抗コリンエステラーゼ薬がよく使用されますが、抗MuSK抗体陽性の患者さんでは、効果がみられないばかりか逆に悪化する場合もあります。また、抗MuSK抗体陽性MGでは胸腺の異常はほとんど報告されていないため、先述した通り胸腺摘除は行いません」と語ります。
血液浄化療法の「単純血漿交換」と「免疫吸着療法」は同じような効果だといわれていますが、これについて村井先生は、「抗MuSK抗体陽性では単純血漿交換のほうが有効であり、免疫吸着療法は効果が劣ります」と、方法によって効果が異なることを紹介。「抗MuSK抗体が免疫吸着療法で使用されるトリプトファンカラムにはつきにくいためと考えられます」と、その理由を語りました。
また、現在国内で治験中の「エクリズマブ」について、「抗AChR抗体陽性の患者さんには有効と考えられていますが、抗MuSK抗体陽性の場合は効かないであろう、といわれています」と最新の研究状況を紹介。「抗体を測定することが、治療の精度を高めていくことにつながります」と語りました。
MG患者さんのQOLを考えた継続的な治療を
MG全体のうち、10%を占める抗AChR抗体、抗MuSK抗体ともに陰性のダブルセロネガティブのMGについて、村井先生は、「そもそもMGでない可能性も考慮する必要があります」と語ります。そのうえで、テンシロンテストやアイスパックテストで明らかにMGであると判断した場合は、「ステロイド薬の治療を開始し、カルシニューリン阻害薬を使用する一般的な治療を行います」と治療指針の立て方を説明します。
症状に波がある疾患のMG。そのため、基本的には神経内科の医師が経過観察を行います。「抗AChR抗体陽性MGの場合、不安定な時には1~2か月に1回、安定してきたら数か月に1回、抗AChR抗体の測定を行います」と村井先生。一方の抗MuSK抗体陽性MGについては、「球症状がみられる場合が多く、クリーゼの可能性も比較的高いため、重症化する人が多いという特徴があります。これがQOLの低下につながっている可能性もあります」と語り、より注意深く経過を見届ける必要性があるといいます。「MGは総じて寛解が難しく、長く付き合わなければならない疾患です。患者さんのQOLを考えた継続的な治療を行うことが重要です」(村井先生)
症状に波がある疾患のMG。そのため、基本的には神経内科の医師が経過観察を行います。「抗AChR抗体陽性MGの場合、不安定な時には1~2か月に1回、安定してきたら数か月に1回、抗AChR抗体の測定を行います」と村井先生。一方の抗MuSK抗体陽性MGについては、「球症状がみられる場合が多く、クリーゼの可能性も比較的高いため、重症化する人が多いという特徴があります。これがQOLの低下につながっている可能性もあります」と語り、より注意深く経過を見届ける必要性があるといいます。「MGは総じて寛解が難しく、長く付き合わなければならない疾患です。患者さんのQOLを考えた継続的な治療を行うことが重要です」(村井先生)
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