抗MOG抗体陽性視神経炎の診断と治療/東京医科大学眼科学分野兼任教授 毛塚眼科医院院長 毛塚剛司先生 - すべて | 臨床検査薬(体外診断用医薬品・研究用試薬)の株式会社コスミック コーポレーション
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神経疾患視神経脊髄炎
抗MOG抗体陽性視神経炎の診断と治療/東京医科大学眼科学分野兼任教授 毛塚眼科医院院長 毛塚剛司先生
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東京医科大学眼科学分野兼任教授/毛塚眼科医院院長
毛塚剛司(けづか たけし)先生
ご略歴
1991年 東京医科大学卒業
1995年 東京医科大学大学院医学系研究科博士課程修了
1997年 米国ハーバード大学スケペンス眼研究所研究員
2002年 東京医科大学八王子医療センター講師
2003年 東京医科大学眼科学教室 講師
2011年 東京医科大学眼科学教室 准教授
2017年 毛塚眼科医院 院長、東京医科大学臨床医学系眼科学分野 兼任教授
毛塚剛司(けづか たけし)先生
ご略歴
1991年 東京医科大学卒業
1995年 東京医科大学大学院医学系研究科博士課程修了
1997年 米国ハーバード大学スケペンス眼研究所研究員
2002年 東京医科大学八王子医療センター講師
2003年 東京医科大学眼科学教室 講師
2011年 東京医科大学眼科学教室 准教授
2017年 毛塚眼科医院 院長、東京医科大学臨床医学系眼科学分野 兼任教授
抗MOG抗体陽性視神経炎の診断と治療
ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(MOG:myelin-oligodendrocyte glycoprotein)は、視神経内に存在するグリア細胞の1つであるオリゴデンドロサイトの表面に発現する蛋白質で高い抗原性を示します。抗MOG抗体は中枢神経に炎症性脱随病変を生じさせる自己抗体で、視神経炎、脳炎、脊髄炎などの原因となります。抗MOG抗体関連疾患として神経内科領域において頻度が高いのは脳炎、脊髄炎などですが、眼科領域では近年、抗MOG抗体陽性視神経炎が知られるようになり、罹患数は少ないものの、失明のリスクや易再発性などの問題が大きいことから、眼科医はこれを見逃さずに診断することが求められます。しかしながら、抗MOG抗体陽性視神経炎の臨床症状や診断方法は、まだ十分に周知されているとはいえません。
ここでは、東京医科大学眼科学分野兼任教授/毛塚眼科医院院長の毛塚剛司先生に、現時点で解明されている抗MOG抗体陽性視神経炎の病態や診断・治療法についてご解説いただきます。
ここでは、東京医科大学眼科学分野兼任教授/毛塚眼科医院院長の毛塚剛司先生に、現時点で解明されている抗MOG抗体陽性視神経炎の病態や診断・治療法についてご解説いただきます。
難治性で再発しやすい抗MOG抗体陽性視神経炎
―抗 MOG抗体陽性視神経炎とはどのような疾患なのでしょうか
視神経炎は、何らかの原因で視神経に炎症を起こし、視力低下や視野欠損、失明などの視力障害を来す疾患です。通常の特発性視神経炎はステロイドパルス療法が奏功し、視力の回復も得られる場合が多いのですが、なかにはステロイドが効きにくい、あるいは再発を繰り返し失明の転帰をとる症例があり、それらは難治性の視神経炎として捉えられてきました。
近年、こうした難治性の視神経炎における血清中の自己抗体の関与が明らかになり、抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性例にステロイド抵抗性が多いことが知られるようになりました。さらに最近、注目され始めたのが抗MOG抗体です。抗AQP4抗体陰性例のうち、抗MOG抗体陽性例では、視神経炎の再発率が高いということがわかってきました。
抗MOG抗体陽性視神経炎は、再発を繰り返すことで視機能が低下し、失明に至りやすいだけでなく、抗AQP4抗体陽性視神経炎と同様に、視神経炎発症後に脳幹病変や脊髄病変を来す可能性があり、抗AQP4抗体陰性の視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)の範疇に抗MOG抗体陽性視神経炎が含まれると考えられます。
現在、抗AQP4抗体陽性視神経炎は重症度が高い疾患として周知されているものの、抗 MOG抗体陽性視神経炎についてはまだ十分とはいえません。しかしながら、再発を繰り返す活動性の高い疾患であることから、抗AQP4抗体陰性例において抗 MOG抗体陽性視神経炎を鑑別することは、適切な治療を行ううえで極めて重要です。
―抗 MOG抗体陽性視神経炎にはどのような臨床的特徴がありますか
日本神経眼科学会では2017年までの3年間に抗 MOG抗体陽性視神経炎の全国調査を実施し、多施設における500例のデータを収集しました。抗 MOG抗体陽性視神経炎の臨床像は、そのデータの解析結果により明らかになると思われますが、現時点での中間解析から「男女比はほぼ同等、もしくはやや男性に多い」「視神経乳頭型が多い」「MRI所見で眼窩内前方の視神経に高信号を示しやすい」「ステロイド治療に感受性が高い」「視力予後が良い」「再発しやすい」などの特徴が見られます。発症は幅広い年齢で見られ、若年患者も珍しくありません。
一方、抗AQP4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴としては「9:1で女性に多い」「眼痛が少ない」「MRI所見で眼窩内後方の視神経に高信号を示しやすい」「ステロイド抵抗性が多い」「再発するが、抗 MOG抗体陽性ほどではない」などが挙げられ、両者の臨床像には少なからず違いが認められます1)。
視神経炎は、何らかの原因で視神経に炎症を起こし、視力低下や視野欠損、失明などの視力障害を来す疾患です。通常の特発性視神経炎はステロイドパルス療法が奏功し、視力の回復も得られる場合が多いのですが、なかにはステロイドが効きにくい、あるいは再発を繰り返し失明の転帰をとる症例があり、それらは難治性の視神経炎として捉えられてきました。
近年、こうした難治性の視神経炎における血清中の自己抗体の関与が明らかになり、抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性例にステロイド抵抗性が多いことが知られるようになりました。さらに最近、注目され始めたのが抗MOG抗体です。抗AQP4抗体陰性例のうち、抗MOG抗体陽性例では、視神経炎の再発率が高いということがわかってきました。
抗MOG抗体陽性視神経炎は、再発を繰り返すことで視機能が低下し、失明に至りやすいだけでなく、抗AQP4抗体陽性視神経炎と同様に、視神経炎発症後に脳幹病変や脊髄病変を来す可能性があり、抗AQP4抗体陰性の視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)の範疇に抗MOG抗体陽性視神経炎が含まれると考えられます。
現在、抗AQP4抗体陽性視神経炎は重症度が高い疾患として周知されているものの、抗 MOG抗体陽性視神経炎についてはまだ十分とはいえません。しかしながら、再発を繰り返す活動性の高い疾患であることから、抗AQP4抗体陰性例において抗 MOG抗体陽性視神経炎を鑑別することは、適切な治療を行ううえで極めて重要です。
―抗 MOG抗体陽性視神経炎にはどのような臨床的特徴がありますか
日本神経眼科学会では2017年までの3年間に抗 MOG抗体陽性視神経炎の全国調査を実施し、多施設における500例のデータを収集しました。抗 MOG抗体陽性視神経炎の臨床像は、そのデータの解析結果により明らかになると思われますが、現時点での中間解析から「男女比はほぼ同等、もしくはやや男性に多い」「視神経乳頭型が多い」「MRI所見で眼窩内前方の視神経に高信号を示しやすい」「ステロイド治療に感受性が高い」「視力予後が良い」「再発しやすい」などの特徴が見られます。発症は幅広い年齢で見られ、若年患者も珍しくありません。
一方、抗AQP4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴としては「9:1で女性に多い」「眼痛が少ない」「MRI所見で眼窩内後方の視神経に高信号を示しやすい」「ステロイド抵抗性が多い」「再発するが、抗 MOG抗体陽性ほどではない」などが挙げられ、両者の臨床像には少なからず違いが認められます1)。
抗体検査は難治性の視神経炎における積極的な治療の根拠となる
―抗MOG抗体陽性視神経炎と抗AQP4抗体陽性視神経炎の患者さんはどのくらいいるのでしょうか
視神経炎の患者さんは10万人当たり1.6~2人とされ、非常に稀な疾患ではあります。その中で、抗 MOG抗体陽性視神経炎および抗AQP4抗体陽性視神経炎は、それぞれ全視神経炎の約10%を占めると考えられます。つまり、視神経炎患者の10人中2人は失明リスクの高い抗体陽性タイプであり、うち1人が抗 MOG抗体陽性であるという頻度を考慮すれば、抗 MOG抗体検査を実施する意義は大きいと考えられます。
―抗 MOG抗体陽性視神経炎はどのように診断するのでしょうか
まず、視神経炎の診断を確定することが重要です。視神経炎の症状および所見は、急な視力低下や視野欠損、失明などの視力障害、眼痛、中心フリッカー値(CFF)低下(35Hz未満)などです。視神経乳頭の浮腫は虚血性視神経症やぶどう膜炎の原田病などでも見られるので、鑑別には注意が必要です。
視神経炎の診断を確定した後、感染性によるものを除外してから、視神経脊髄炎(NMO)診断において保険適用が認められているEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)法を用いて、全例で抗AQP4抗体検査を実施します。結果が出るまでの間に早速第1クール目のステロイドパルス療法を開始します。
一方、抗AQP4抗体が陰性であっても、第1クールで視力改善が認められずになお自己抗体陽性が疑われる場合は、cell based assay(CBA)法にて抗AQP4抗体の再検査および抗 MOG抗体検査を実施します。CBA法は感度、特異度に優れ、最も信頼できる方法ですが、保険適用外なので検査コストが高くなります。したがって、まずはELISA法で抗AQP4抗体を調べ、陰性例で難治性であればCBA法による抗AQP4抗体の再検査および抗 MOG抗体検査を委託検査するのが現実的です。
―抗 MOG抗体陽性視神経炎の診断が確定した場合にはどのような治療を行うのでしょうか
当面は、抗AQP4抗体陽性視神経炎の治療に準じ、ステロイドパルス療法後にステロイド内服を施行し、場合によっては免疫抑制剤を併用します。また、保険適用外ですが血漿交換療法や免疫グロブリン療法への移行も考慮します。このように、抗体の有無により治療方針を決定することができますし、「抗体陽性」という検査結果が難治例に対し積極的な治療を勧める根拠となります。これらが視神経炎において抗体検査を行う重要な意義だと考えています。
なお、現在、先述の全国調査の結果を基に、抗 MOG抗体陽性視神経炎の診療ガイドラインの作成が進められています。
視神経炎の患者さんは10万人当たり1.6~2人とされ、非常に稀な疾患ではあります。その中で、抗 MOG抗体陽性視神経炎および抗AQP4抗体陽性視神経炎は、それぞれ全視神経炎の約10%を占めると考えられます。つまり、視神経炎患者の10人中2人は失明リスクの高い抗体陽性タイプであり、うち1人が抗 MOG抗体陽性であるという頻度を考慮すれば、抗 MOG抗体検査を実施する意義は大きいと考えられます。
―抗 MOG抗体陽性視神経炎はどのように診断するのでしょうか
まず、視神経炎の診断を確定することが重要です。視神経炎の症状および所見は、急な視力低下や視野欠損、失明などの視力障害、眼痛、中心フリッカー値(CFF)低下(35Hz未満)などです。視神経乳頭の浮腫は虚血性視神経症やぶどう膜炎の原田病などでも見られるので、鑑別には注意が必要です。
視神経炎の診断を確定した後、感染性によるものを除外してから、視神経脊髄炎(NMO)診断において保険適用が認められているEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)法を用いて、全例で抗AQP4抗体検査を実施します。結果が出るまでの間に早速第1クール目のステロイドパルス療法を開始します。
一方、抗AQP4抗体が陰性であっても、第1クールで視力改善が認められずになお自己抗体陽性が疑われる場合は、cell based assay(CBA)法にて抗AQP4抗体の再検査および抗 MOG抗体検査を実施します。CBA法は感度、特異度に優れ、最も信頼できる方法ですが、保険適用外なので検査コストが高くなります。したがって、まずはELISA法で抗AQP4抗体を調べ、陰性例で難治性であればCBA法による抗AQP4抗体の再検査および抗 MOG抗体検査を委託検査するのが現実的です。
―抗 MOG抗体陽性視神経炎の診断が確定した場合にはどのような治療を行うのでしょうか
当面は、抗AQP4抗体陽性視神経炎の治療に準じ、ステロイドパルス療法後にステロイド内服を施行し、場合によっては免疫抑制剤を併用します。また、保険適用外ですが血漿交換療法や免疫グロブリン療法への移行も考慮します。このように、抗体の有無により治療方針を決定することができますし、「抗体陽性」という検査結果が難治例に対し積極的な治療を勧める根拠となります。これらが視神経炎において抗体検査を行う重要な意義だと考えています。
なお、現在、先述の全国調査の結果を基に、抗 MOG抗体陽性視神経炎の診療ガイドラインの作成が進められています。
眼科医として視神経炎を診断し、神経内科医と連携してNMOSDを治療する
―抗 MOG抗体検査のタイミングについてご説明ください
抗 MOG抗体はいつでも検出可能というわけではなく、例えば、小児の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)症例を対象とした抗MOG抗体の検討において、かなり早い時期に抗MOG抗体のレベルが低下することをわれわれは確認しています2)。したがって早期、あるいは治療により視神経炎が落ち着いた寛解期においては抗MOG抗体を検出できない可能性があることに留意した方が良いと考えています。
―NMOSDの治療という観点から、神経内科医との連携は必要ですか
抗 MOG抗体陽性視神経炎を診断するのは眼科医の役割ですが、後に脳幹病変や脊髄病変を来す可能性があるため、神経内科医との連携が求められます。脳炎および脊髄炎の発症率や発症時期などは明らかになっていませんが、眼科医でも神経症状に関する問診はできますので、治療後の寛解期の症例において、手足のしびれや温痛覚の異常、呂律が回らないなどの眼外症状が見られる場合には、早急に神経内科医と連携し、NMOSDを考慮した治療を行う必要があります。その意味で、眼科医に求められる役割は大きいと思います。
受託測定の詳細はこちらをクリックください(別ウィンドウが開きます)
抗 MOG抗体はいつでも検出可能というわけではなく、例えば、小児の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)症例を対象とした抗MOG抗体の検討において、かなり早い時期に抗MOG抗体のレベルが低下することをわれわれは確認しています2)。したがって早期、あるいは治療により視神経炎が落ち着いた寛解期においては抗MOG抗体を検出できない可能性があることに留意した方が良いと考えています。
―NMOSDの治療という観点から、神経内科医との連携は必要ですか
抗 MOG抗体陽性視神経炎を診断するのは眼科医の役割ですが、後に脳幹病変や脊髄病変を来す可能性があるため、神経内科医との連携が求められます。脳炎および脊髄炎の発症率や発症時期などは明らかになっていませんが、眼科医でも神経症状に関する問診はできますので、治療後の寛解期の症例において、手足のしびれや温痛覚の異常、呂律が回らないなどの眼外症状が見られる場合には、早急に神経内科医と連携し、NMOSDを考慮した治療を行う必要があります。その意味で、眼科医に求められる役割は大きいと思います。
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1)毛塚剛司. 神経眼科 2017; 34: 274-280.
2)Miyauchi A, et al. Neuropediatrics 2014; 45: 196-199.
2)Miyauchi A, et al. Neuropediatrics 2014; 45: 196-199.
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